労働災害実例7 農具貫通事故の詳細とその後について
仕事に限らず生きていればどこかで怪我には遭遇するものですが、多くは擦り傷やちょっとした切り傷に集中しているため、普段は事故の深刻性というものには意識する事がありません。
でもちょっとだけ先を考えてみたら、これって実はけっこう怖い事なんですね。
勢いが弱いから『擦り傷』で済む事故があるという事は、それ以上の強い勢いで同じ事故を考えた場合は『擦り傷』で済まされるでしょうか?
『切り傷』だって同じです。傷を受ける事になった原因の勢いや重量、速度がもっとあったならば、その『切り傷』はどこまで深いものとなったのでしょう?
このシリーズである
労働災害実例
安全を無視した結果に起きた労働災害
では、『その1』として既に書き表した『赤チン労災』以外はどれも重症度の高い実例、または重大事故に繋がっても何ら不思議ではない実例を書き示しますので、内容によっては気分を害するものもあるかと思います。
しかし、未来に続く自分の人生を考えるのであれば安全に包まれた環境というよりも、安全を意識した心構えが無ければ始まらないもので、この意識に欠落がある人は高確率でいつの日か大きな事故に見舞われる事になってしまいます。
このシリーズである労働災害にまつわる内容の全ては、その人の先の人生を思えば残酷な部分が多いですが、そういった実例があるからこそ安全の意識が高まる事もまた事実ですので、この先の内容を目にしてあなたがどう感じるかは自由ですが、少なくとも『同じ目に遭いたくはない』と思う事でしょう。
『事実があるからこそ意識付く』
変な話ですが、これもまた真実なのです。
繰り返しますが、気分が悪くなる内容であり、僕の見解もまた気分を害するかもしれません。
先を知る必要が無い方や、こういった内容は苦手とする方は戻る事をお勧めします。
しかし、これらに当てはまる労働災害がどこかで必ず起こり続けている事も確かな事は、強く念を押しておきます。
今回の話は恥ずかしくも僕自身が遭遇した事故でして、ある種の幸運が重なる事で今もこうして五体満足で生きているわけですが、
事故のタイミング、けがを負った位置が少しでも異なればこうはならなかったという事で、反省の意味も込めて書きたいと思います。
重大労働災害7 農具貫通事故の詳細とその後について
農業を営む人なら多くの方がピンとくるかもしれない『フォーク』と言えば、農業用フォークの事です。
都会の人ほどピンと来ないかも知れませんので、簡単な説明を施せば巨大なフォークと言えばいいかも知れません。食卓で見掛けるフォークを100倍くらい大きなものを思い浮かべてください。
映画のワンシーンなどでは農家の人が藁を掬って放るイメージがありますが、まさにそれそのものですね。
アクション映画では敵を突き刺す武器として使用される場合も多々あります(笑)。
僕は5歳当時、この農業用フォークで左手小指の第一関節・第二間接間を貫通させた事があり、危うく左手小指の欠損をはじめ、化膿などによるもっと大きな事故に発展する可能性を秘めた事故に遭遇した事がありました。
事故発生の経緯説明
母親の実家が酪農家という事で、家畜である牛の餌の準備をするのがお盆などに宿泊しに行った時の楽しみの1つでした。
牛の飼料はそれなりに種類がありますが、その中の1つに『サイロ』と呼ばれる深さ15メートル程度の正方形や円形の飼料貯蔵庫があります。巨大な井戸を思い浮かべれば問題ないでしょう。
サイロには飼料が補充された時こそ縁いっぱいまでありますが、当然ながら日々を重ねて使用するほどその量を減らし、地下へ地下へと足場を沈めていきます。
そうなると当たり前の話で最後には最深地下15メートルまで飼料が目減りするわけですが、飼料そのものは柔らかく、例えば5歳当時の身軽な僕が5メートル下の飼料に向かって飛び降りても痛くとも何ともなかったんですね。
当然、昇降のためのハシゴは掛けられていましたが、子供だった僕は毎回地上から飼料に向かってフォークを投げて突き刺し、それから飛び降りていたんです。
…ですが、その日は投げたフォークが飼料に突き刺さらず、爪先が上を向いた状態で倒れてしまったのです。
ここでちょっと考えればフォークが倒れる事で着地範囲が狭まる事に気付きますが、当時の僕はそんな事も気にせずに飛び降りたわけですね…。
…で、既にどうにもならない落下途中に狭まった着地可能地点に気付き、ついでにこちらを向いたフォークの危険性にも気付き、黙っていつも通り、しゃがむように落ちれば良かったものを、なぜか両手を広げてしまったのです。
それでそのまま着地…。
痛みはなく、上で様子を見守っていた親戚2人に『大丈夫だった!』と合図を送ると、地上の2人は『大丈夫じゃない!』と。
何の事かとひとまず立ち上がろうとすると、左手にフォークが付いてくる…。
『?』と思って左手を見ると、小指の中からフォークの爪の1本が『こんにちわ』…。
まあ、バカっぽく書いていますが、本当にそんな感じです。
貫通した爪の長さは軽く20センチ以上。今考えればよくもまあ、指が切断したり、断裂しなかったものだなと…。
うまい具合に欠陥を避けたらしく、じんわりと血が滲んだ程度で『出血』という程でもなく、麻痺状態の方が先走ったようで痛みそのものが無かったと記憶します。
何度も繰り返しますが、当時は5歳児。ついでにチビスケ。
自分の小指よりもフォークの爪の方が太い年齢だったのです。
事故発生の原因
危険を予測しない、または意識しない作業は問題ですが、危険を予測できない知能・知識はより深刻な問題です。
高い所から下へ下る作業、凶器にもなり得る道具使用の危険性、準備された道具の正しくない使い方、慣れた作業だからと大人の監視下に無かった事も大きな問題でしょう。
事故はどんな形であれ、子供や大人といった『立場』を選ぶ事はありません。
もちろん、初心者だろうが熟練者だろうが、その経験度合いに左右される事はなく、発生した事故は『事故』でしかありません。
今回の話は一見すれば単に僕のバカな思い出話ですが、実は『突起物による事故』というものは世の中の組織のあらゆる場所で発生している事故でもあるのです。
そしてそのほとんどは気を付けていれば回避できる事故でもあるのです。
今回の事故の発生原因は『気をつけなかった・意識しなかった』から発生したものと考えられるでしょう。
事故の結果
ただただ幸運だった。こうして過去を振り返って書く中、その思いに尽きます。
自分の行いをわざわざ事例として挙げるのも妙な気分ですが、幸いにも軽傷で済んだこの事例を深刻化の可能性という観点で眺めてみましょう。
例えばフォークの爪が貫通した場所が小指ではなく、手のひらや腕だったらどんな事故になっていたでしょう?
着地失敗で顔面に爪先が迫った場合は?
フォークの柄の隅に足が着地し、勢いよくフォークが立ち上がった場合は?
足の裏から突き刺さる事だって考えられます。
必ず重大事故に繋がるとは限りません。
ですが、必ず重大事故に繋がらないとも言い切れない所が非常い怖いところですね。
また、落下中に立て掛けてあるハシゴに足などを引っ掛けてしまった場合も怖い事故に発展する可能性を秘めています。
少なくとも顔面着地の可能性が生まれた事でしょう。その顔面がよりによってフォークの先端に目がける可能性も十分にあった筈です。
事故の発生原因のほとんどは軽はずみな行動から始まり、その結果の全ては誰も前もって知る事が出来ないという良い例として心得るに至った事は自分にとって勉強になりましたが、
言ってみれば勉強に出来ないほどの事件に発展した可能性だってあるという事です。
単に運が良かった。それだけの話でしかありません。
こうすれば事故は免れた
道具の全てには適した用途というものが備わっており、その用途を無視すれば事故の可能性が生まれます。
この場合の事故回避に絞って言うなら、まずはハシゴを伝って下降するべきでしたね。
5歳児には重いフォークに関しては、地上から力任せに飼料に『突き刺す』のではなく、地上からサイロの隅に落とすか、ハシゴから離れた位置に落とす事が望ましかったでしょう。
ハシゴを下降する間に落下しないとも言い切れませんので、自分が不意に落下した際に、考えられる落下地点からフォークを遠ざけるのがベストと思われます。
しかし、こう言っては元も子も無い話ではありますが、『危険性』を考える事の出来ない子供に遊び半分で危険の伴う作業を行わせなかった方が一番正しい選択と言えた事でしょう。
今回のあとがき
異色ではありますが、実際に僕自身が体験した事故の一例でした。
一見しただけだと怪我とは言えない怪我の度合いでしたが、『フォークが刺さった・突き抜けた』という言葉に母親をはじめとした親族が驚いていた事を思い出します。
僕の唯一の気がかりは『腐らなければいいけど…』と言う誰かの言葉でしたが、『腐る』の言葉は少しばかり気にした覚えがあります。
腐れば切るしかない。腐って切り落とす場合、小指で済めばシメタものでしょうが、体内で毒素が回れば腕以上の被害が出るかも知れない…。
漠然とではありますが、5歳児の脳ミソでもそんな恐怖感にさらされた覚えがほんのりあるのです。
そしてその頃には既に穴の開いた左手小指が…。時すでに遅し…?
何度も繰り返しますが、僕の場合は本当に運が良かっただけの話です。
これを読むあなたはこんな結果を招かないようにしてくださいね。
すえ
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