余計な気を利かせた結果、
利き手の大半を失う
こんにちは! すえです!
仕事に限らず生きていればどこかで怪我には遭遇するものですが、多くは擦り傷やちょっとした切り傷に集中しているため、普段は事故の深刻性というものには意識する事がありません。
でもちょっとだけ先を考えてみたら、これって実はけっこう怖い事なんですね。
勢いが弱いから『擦り傷』で済む事故があるという事は、それ以上の強い勢いで同じ事故を考えた場合は『擦り傷』で済まされるでしょうか?
『切り傷』だって同じです。傷を受ける事になった原因の勢いや重量、速度がもっとあったならば、その『切り傷』はどこまで深いものとなったのでしょう?
このシリーズである
労働災害実例
安全を無視した結果に起きた労働災害
では、『その1』として既に書き表した『赤チン労災』以外はどれも重症度の高い実例を書き示しますので、内容によっては気分を害するものもあるかと思います。
しかし、未来に続く自分の人生を考えるのであれば安全に包まれた環境というよりも、安全を意識した心構えが無ければ始まらないもので、この意識に欠落がある人は高確率でいつの日か大きな事故に見舞われる事になってしまいます。
内容はその人の先の人生を思えば残酷な部分が多いですが、そういった実例があるからこそ安全の意識が高まる事もまた事実ですので、この先の内容を目にしてあなたがどう感じるかは自由ですが、少なくとも『同じ目に遭いたくはない』と思う事でしょう。
『事実があるからこそ意識付く』
変な話ですが、これもまた真実なのです。
繰り返しますが、気分が悪くなる内容であり、僕の見解もまた気分を害するかもしれません。
先を知る必要が無い方や、こういった内容は苦手とする方は戻る事をお勧めします。
重大労働災害3『右手指4本の切断事故』
大きな施設となると内部の空気を安定させるための空気循環システムが設置されている場合が多く見受けられます。
空気循環システムは空気の取り入れと排出の2通りを行いますが、ほとんどの場合は役割が定められているため、どちらか一方が選択され、あとは故障するまでそのまま(ごく稀にメンテナンス実施)というのが僕が見てきた基本でした。
今回は空気循環システムそのものと言うより、空気の通り道となるダクトの切れ目で事故が発生しました。
ダクトは一見すれば単なる鉄の筒ですが、内外の空気を強制的に送るためにダクト径に合った大きさのファンが高速回転しており、それはダクトの外側から目視する事が出来ません。
視界に入ってしまった『ビニール製の袋』
被災者はそのダクトに偶然通り掛った派遣従業員でした。
企業本体の下請けの下請けという立場の彼の主な仕事は工場から排出される産業廃棄物の処理全般で、いわば企業の掃除役と言って差し支えのない存在グループの一員でした。
人の嫌がる仕事をそつなくこなす彼らに企業本体も高い評価を下し、彼ら無しにはクリーンな場内イメージを保てない事実がありましたが、直接生産業務に携わらなかったせいもあってか彼らが安全会議や類似した発表会に招かれる事はありませんでした。
簡単に言えば彼らは場内敷地内全域で勤務していながら、様々な機器の持つ危険性の教育を受けていなかったのです。
そんなある日、1人の清掃業者が敷地内を歩いていると、場内の一部システムに空気を送り込むダクトにゴミが引っ掛かっている事に気付いたようでした。
近付いて確認すると、それは製造工程内でよく使用される特注の大きなゴミ袋でして、1辺が1メートル以上もあるビニール袋と知りました。
ゴミ袋はダクト入り口の表と内側にへばりつく様にして引っ掛かっており、これが内部に吸い込まれたら大変だと思ったその人は、素手でビニールを引っ張り取ろうとしてしまったのです。
空気循環ダクトに使用されるファンは非常に強力ですが、それでも人が近くに立って吸い込まれるような錯覚をするほどの勢いは感じません。
でも、それが仇になったようです。
ビニールを手にして勢いよく引っ張ろうと、ダクトにへばりつくビニール袋を少し掴んだとたん、密着面が少なくなったビニール袋がファンの勢いに負けて内部に吸い込まれてしまったのです。
そしてその頃にはしっかりと右手でビニールを握っていたため、右手も一緒に吸い込まれる形になってしまったんですね。
旧型のダクトファンは驚くほどダクトの切れ目付近に存在していたようで、本来ならその手前で異物混入を防ぐ役割を持つ鉄製のネットはとうの昔に朽ち果てていたようでした。
結果、妨げるものが何も存在しないビニール袋を掴んだその手はファンに絡まるビニール袋と一緒に引っ張られ、高速回転を続けるファンによって親指以外の指を全て持っていかれてしまったのです。
事故の結果
ただでさえ単純構造のダクトは不具合を起こさない限りメンテナンスを行う事がありません。
外見からすれば風雨によって一定の清潔さを保っているように見えるダクトですが、その内部は細菌ばい菌の宝庫であり、加えて言えば混ざり合ったグリスや作動油が強い粘度を帯びるほどにこびりついています。
切断面はたちまち汚れ、そのままでは腐敗するという理由で絶叫を上げるほどの洗浄をされた直後、さらに数ミリほど傷口部分を切られる(削られる?)事になったようです。
残された右手には親指1本。…想像したくないとかそう言う前に、想像出来ませんね。
彼にしてみては『ちょっと気を利かせた』つもりだったのでしょうが、会社にとっては大きな損益となり、何よりも被災者本人が人生を丸ごと損するような事態になってしまったわけですね。
この事は当日中に敷地内に滞在する全員に通達されましたが、その反響には心中を察するような言葉は皆無でした。
不謹慎と言われればそれまでですが、最も多かった話の内容が
- じゃんけんが出来なくなった
- ゲームコントローラーを持てなくなった
…という、この2点に絞られていた気がしましたね。
繰り返して不謹慎な話ですが、当事者や関係者、または安全衛生管理グループ以外の人物としては全てが他人事であり、話のネタにしかならないんですね。
少なくとも心配や共感と言う表現は皆無でして、ニュースキャスターでもない僕らが苦渋の表情を作る事もないんです。
彼は親切心なのか会社を思ってか、いずれにせよ『ゴミを取ろう』という気持ちで動いたわけですが、その行動そのものが余計なお世話という話になってしまったわけで、誰も得する所が無いという結果でしかありませんでした。
こうすれば事故は免れた
この事故の回避や正しいゴミの除去はいたってシンプルです。
まず、ダクトの運転を止める。
これを考えるべきでした。
『手元にスイッチが無い・捜査の方法を知らない・管理者が身近に居なかった』なんていう言い訳は通用しません。
手を出した時点で事故の有無以前に、全責任は身を持って思い知るしかないのですから。
事故の全ては発生してからでは遅過ぎであり、時間が戻る事はありません。
まず考えるべきはどうすれば稼働中の機械を停止する事が出来るのか…。
そして手を出す事で予想外の事故が発生するとしたら、いったいどんな痛い目を見る事になるのか…。その想像は全て最悪のケースを考えましょう。
そんな最悪を考えれば、迂闊に手を出す…なんてことは出来ず、冷静になれる筈なのです。
今回のあとがき
事故の回避は現場の状況を知っても安易に近付かない事が鉄則であり、解消を求めるならば関係者を探し、居ないようであれば事務所や現場など、人が必ずいる所に向かう事が第一と考えられます。
極論すれば気付かなかった方が良い話でもありますが、気付いたからにはどうにかしたいという前向きな考えを持つ方もいる事でしょう。
しかし、勝手知ったる職場とは言え、自分には分からない物事は無数に存在するのも事実です。
確実な方法が見出せないのであれば、『素直に尋ねる』。
これこそが最善にして最良作、そして円滑な作業に至ります。
そこまでして発生する事故であれば、高確率であなたや関係者の犠牲は限りなく無に近付く事でしょう。
これを読むあなたはこんな事が無いようにしてくださいね。
すえ
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